今は昔、三河湾では、クルマ海老がよく獲れる。釣るのではなく、網ですくう。そこから「えびすくい」が始まったと思うが、バリバリの愛知県人の吾輩でも、「どうする家康」のを見るまで知らなかった。多分、大森南のオリジナルではないか？暗黒舞踏家 麿赤児のＤＮＡがしゃしゃり出たか？閑話休題。
長篠の前竹廣村の弾正山に御陣をすえられけるに。御家人等武田の猛勢を聞おぢして。何となく思ひくしたる様を見そなはし。酒井左衛門尉忠次をめしてゑびすくひの狂言せよと命ぜらる。忠次かしこまりつと立て舞けるが。兼ての絶技なれば一座の者みなゑつぼに入て哄と笑ひ出しにより。三軍恐怖の念いつとなく一散してけり。さて本多榊原等をめし軍議せしむるにいづらも味方が原の例を引て。いと御大事なりといふ。 君むかしは信玄なり今は勝頼なるぞ。さまで心を労するに及ばずと宣ひしかば。諸人いよいよ勇気百倍しけるとぞ。（東武談叢。）……
クルマ海老は旨い、「姿イセエビ、味クルマエビ」。エビのなかでも容姿端麗、食感、甘み、旨み、いずれもグンバツ、エビ界のプリンス。松潤みたい。
驚くべきことに、愛知県の「県魚」は、このクルマ海老。制定された時は、なにゆえ、海老が魚なんだ？海老は海老じゃないかという少数民族もいたが、大部分の愛知県人は、海老、いいんじゃない、いう雰囲気であった。確かに愛知県人は海老好きである。名古屋めしの天むすの具は海老。海老天入り味噌煮込みうどんは人気のメニュー。吾輩は、えびせんべい坂角総本舗の名古屋限定販売の「ゆかり黄金缶」を名古屋土産にする。中味は、固いだけのえびせんべいでパッケージは黄金色。いかにも派手好な名古屋人のお土産である。
またまた、話は横にそれるが、名古屋人が「エビフリャ～」が大好きというのは大誤解。厳密な名古屋めしの中には、入っていない。タモリがたまたま講演で訪れた「名古屋国際ホテル」という、ぜんぜん国際的ではなく、こてこてのホテルのロビーに飾ってあった、クルマ海老の殻で貼り付けた千石船の模型を見て、ネタに困った時に、名古屋人をいじるギャグにしたのさ。それに便乗して、老舗喫茶店「コンパル」、今や全国区の「コメダ」あたりが、海老フライサンドを売り出して、名古屋めしっぽくなったのさ。便乗は、名古屋の十八番。閑話休題。
徳川家と関係まんざらないわけではない。海老せんべいのルーツ「えびはんぺい」を尾張藩主の徳川光友公に献上したところ、極上の美味として絶賛されたとの旨。それだけさ。
