昭和27年公開の黒澤明監督「生きる」。
もう70年以上前の映画。ワタシの黒澤ベストは、娯楽映画に徹した「用心棒」。いわゆる「羅生門」的なアカデミックな類は申告敬遠。「生きる」も同類だったが、年金生活者となり、カズオ・イシグロの脚本でリメイクの事を聞き、東宝映画名画座の無料体験で見た。若い頃、近代美術館フィルムセンターで一度見た記憶があるが、印象はない。年齢を重ねて、再び鑑賞すると胸に迫るものがある。人間の存在を実感。多くの映画評論家は、本作を生と死をテーマとしたヒューマニズム映画と勘違いして、志村 喬がブランコに乗りながら「コンドラの唄」を口ずさむシークエンスを褒めたたえる。完璧な勘違い、と思う。黒澤のねらいは、志村 喬がハンコを押し続けるファーストシークエンスと、ラスト前の志村の同僚が相も変わらずの役人生活を続けるシークエンス。この映画はこの二つで成立している。後は、この二つをつなげるだけの存在。テーマは、「人間の愚かさ」である。黒澤は、このテーマのもと、一環して映画を制作してきた。デビュー作「姿三四郎」から、代名詞「七人のサムライ」、カンヌをさらった「影武者」等々。

さてリメイク「LIVING」。カズオ・イシグロのインタビューを拝見していると、彼も勘違いしているきらいがある。ノーベル賞作家でも、世界のクロサワには勝てぬか?それとも、ワタシの大いなる勘違いか?「日の名残り」「わたしを離さないで」の傑作を世に送った彼の才能は、いかにリメイクするか?春の訪れが待ち遠しい。
蛇足。
映画の中の市役所職員のあだ名がイケてる。
こういう細部が映画ファンの琴線に触れる。
「糸こんにゃく」日守新一 「こいのぼり」田中春男
「ハエ取り紙」千秋実 「どぶ板」左卜全
「定食」山田巳之助 「ナマコ」藤原釜足
当たり前だが、みな故人。昭和は、一癖も二癖もある役者が多かった気がする。うがちすぎか?