「張込み」というタイトルとは裏腹に、この映画の肝は、「張込み」でなく「鉄道」である。鉄道ファンではない俺でも感じるのだから、鉄道ファンにとっては、たまらん映画らしい。
殺人犯を追って横浜から佐賀まで、二人の刑事が乗った長距離夜行列車、約8分の車内シーンである。
暑苦しい
銀幕からにじみ出る、その雰囲気。(だだし、俺は映画館では見てないけどね)じんわり汗が滲み出てくる感覚。何というリアリティ。ロケーションの魅力を最大生かした、橋本忍の脚本の妙、野村芳太郎の演出がさえわたる。
新聞記者の目を逃れるため、始発の東京駅ではなく、途中の横浜駅から真夏の夜行列車に乗り込む。当然座席は満杯。しかたがなく通路に新聞紙を敷いてへたり込む。年配刑事役の宮口精二が疲れた表情が可哀想。シュウマイ弁当を買えず悔しがる若い刑事役の大木実も可哀想。
当時は冷房などない。車窓は全開だが、とにかく暑苦しい。男の乗客は、ほんとんど下着姿。途中、なんとか席に座れた宮口の安堵の顔。「よかったなぁ~、精二」そんな言葉がつい漏れ出る。駅弁を食べ、♪~お酒もちょっぴり飲んだわね~♪ この時代、麦酒売りはまだ、なかったとみえる。
別の車両に乗った刑事グループと別れ、線路は続くよどこまでも。列車は佐賀に到着。駅舎から出てくる宮口と大木。ここで冒頭の列車シーンは終了。俺的には、ここでお腹いっぱい。この後、張込み、犯人追跡、逮捕と映画本編が続くのだが、なんだか意外とあっさりと終わる印象。それだけ冒頭の列車シーンが強烈。地球温暖化と騒いでいるが、当時の夏の方が確実に暑いイメージ。これは蛇足。