映画の前半、ダラダラと続く、結婚式のパーティシーン&鹿狩り。初めて見た時は、「長いなぁ~、いい加減終わらんかしらん。ベトナム戦争の映画じゃないのか」と思っていたら、突然、ベトナム戦争のシーンに変わる。カットアウト!カットイン!ロバート・デ・ニーロがいきなり火炎放射器をぶっ放している。マイケル・チミノ演出のその鮮やかさ。前半のダラダラとした日常は、突然、過酷な戦争シーンになる。これが現実だ。映画館の椅子の上で、俺は震えた。
結婚式のシークエンスは40分以上続く。前年のアカデミー撮影賞受賞作『未知との遭遇』に続き、撮影監督を務めたヴィルモス・ジグモンドによると、脚本ではこの場面は5ページほどしかなかったとのこと。それゆえ、完成した映画を見て、パーティの場面が延々と続くことに驚いたと語っている。CINEMORE
それに対して、戦争シーンは、30分ほど。しかも、他のベトナム戦争映画と違い、戦闘シーンはほとんどない。劇中の【ロシアン・ルーレット】が強烈な印象で、戦争の悲惨さを語る。まさしく、拳銃に込められた、【弾丸】である。この弾丸が見ている者の心を打ちぬく。バーン!
ラストシーン!、あの暖かさ、あの静謐、あの余韻。なんとも切ない。なんとも見事な幕切れ。何回見ても、胸が絞めつけられる。「おかえりニック」
撮影監督のジグモンドは脚本を読んだ段階では、ラストが感傷的過ぎると感じていた。が、撮影を終えると、それが過ちであったことに気づく。カメラが止まったあと、その場面に登場する俳優たちが、あまりの悲しさ、せつなさから泣き出した。
最近、この【ディア・ハンター】が懐かしくてしょうがない。コロナ禍の中、突然失われた日常。コロナウイルスは、ロシアン・ルーレットの弾丸。次は、俺の番か。誰にもわからない。
私たちは、いま、【ディア・ハンター】の世界を生きている。さて、そのエンディングは?