どんこのアル中 日記

名古屋在住の【年金生活者】。方丈記&徒然草。

絲山秋子【ばかもの】を読む、馬鹿者。

          f:id:doncoyasuo:20210724164114j:plain
久々に、絲山秋子を読んだ。アルコール依存症に苦しむ若い男「ヒデ」と、片腕を失った年配の女「額子」の再生の物語。100%の恋愛小説だ。
アルコール依存症におちいった「ヒデ」の心情が、アル中の俺にとってはきつい。リアリティあふれるというか、リアルそのものだ。ノンフィクションの世界である。

ここ 数日 体 が だるい。 肝臓 だろ う。 沈黙 の 臓器 肝臓 が 悲鳴 を あげ て いる という こと は 俺 は すなわち 脂肪肝。 或いは それ が すすん で 肝炎、 肝硬変。 肝硬変 という 言葉 は 真っ黒 な イメージ だ。 暗闇 で なに も 見え ない よう な 怖 さ だ。 ああ 体 が だるい。 何 も し たく ない。 これ 以上 酒 を 飲む のが 怖い。 けれど どう やっ て 夜 の 長 さを 酒 なし で 過ごし たら いい の だろ う。 それ を 考える のは 酒 を 飲む こと よりも、 肝硬変 よりも もっと 怖い の だ。 俺 には、 ああ 酒 が 飲み たい と 思い ながら 時間 を 潰す こと なんて でき ない。 眠る こと だって でき ない。 酒 を 飲む 地獄 と 酒 を 飲ま ない 地獄 が ある と し たら 俺 は 間違い なく 酒 を 飲む 地獄 を 選ぶ だろ う。 そして 痛く て 痛く て 苦しん で やがて 死ん で しまう として も、 飲め ない 時間、 時計 の 針 を 見 続ける 苦しみ よりは ずっと マシ だろ う。でも、 そんな こと 絶対 に 人 には 話せ ない。体 の ため に お 酒 を やめ なさい。 十人 が 十人 そう 言う わけ で、 俺 は それ と 反対 の 答 を 欲し がっ て いる の だ から。             絲山秋子【ばかもの】

読んでいて、胸がつまる。息苦しくなる。なぜ、絲山は、こんなにも俺の気持ちがわかるのか。絲山は、本当はアル中ではないかと思えてくる。アル中関連の本を何冊か読んだが、なかなか本質を突いた本に出合えてない。絲山は見事に、それを突いた。「飲みたい欲求」より、「飲めない恐怖」。同じような内容だが、アル中の俺にとっては、随分と違う。「飲めない恐怖」が俺を襲う。
俺は、不眠に悩んでいる。今まで、酒の力を借りて、無理矢理寝ていたそうな。実際の脳は、覚醒していて、寝ていないそうな。麻痺しているからだそうな。有無。ほんまかいな、と思うが、医学的にみれば、正しい。しかし、酔っぱらって眠りにつく瞬間は、俺にとって至福の時だ。あのひと時がなくなるのは、辛い。アル中のたわ言。ヤレヤレ。
「ヒデ」が、坂を転げる石のように、アルコール依存症なっていく様は、本当にしんどい。途中、何度も読むことをやめようと思ったが、グイグイ引き込まれる。さすが、絲山の筆力。さすが、芥川賞作家。さすが、村上春樹の跡を継ぐ作家と言われた絲山秋子である。
「ヒデ」は「額子」と飼っていた犬「ホシノ」の死をきっかけに、再生の道を歩む。自ら意志で、アル中病棟に入院。3カ月を経て、アルコール依存症を克服する。そして、片腕となった「額子」に再会。この辺は、嘘くさいというか、ノンフィクションの匂いがプンプン。まぁ、アル中のひがみだろう。転げ落ちた石のままでは、小説は終わらんし。

再生を誓った二人が迎えるラストシーンは、多少、鼻白む思いだが、爽やかである。

ヒデ は 上 を 向い て、 けれども 額 子 と 目 は 合わせ ず に 言う。
「お め ー さ、 俺 と 結婚 し て ー の かよ」 言っ てから、 声 が かすれ て しまっ た こと が 気 に なる。
「なん か、 さっき そんな こと 言っ て なかっ た か?」
「片品 に おいで よ、 って、 言っ た」そう し た って いい よな、 と ヒデ は 思う。 何 が 悪い。 何 も 悪く ない。 こいつ と 生き て いっ たら いい。
「来 たら、 養子 に し て やる よ」樹上 から 額 子 が せせら笑う。
「大人 に なる まで 面倒見 て やる よ」
「ばか もの」   ヒデ は 言っ て、 その はずみ に 足 を 滑ら せ た。
木々 の 緑 を 透かし て そそぐ 強い 日差し と 照り返す 水 の 眩し さが ヒデ の 目 の 前 に あふれ かえっ た。

さて、俺は「ヒデ」になれるか。三回目のアル中入院の「ばかもの」だから、自信はない。まぁ、自信があったら、アル中になんかなっていないか。ぽてちん。

蛇足。昔は、「絲山」の「絲」の字が変換できなくて苦労した覚えがある。今はいとも簡単に「絲山」と変換できるようになった。これも「糸山」の活躍のお陰様。